交通事故で後遺症が残った場合に注意すべき5つのポイント
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
この記事では以下の内容を解説しています。
目次
交通事故における後遺症とはどういう状態か?
交通事故でケガをして治療を行った場合、治療が終了してケガが完治すると、その時点で交通事故による損害が確定したことになり、加害者側と損害賠償金の金額について示談交渉を始めることになります。
では、治療を行ってもケガが治らない場合はどうなるのでしょうか?
たとえば、事故によって失明してしまった場合は、治療を続けても目が見えるようになるわけではありません。
このような場合は、失明という後遺症が残ったとして、その後遺症をもとに、損害賠償金額を確定していくことになるのです。
交通事故における後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令で、後遺障害別等級表別表第1および第2の等級表によって類型化されていて、傷害の部位や程度によって後遺障害等級が認定されます。たとえば、失明の場合は、後遺障害別等級表別表第2の1級1号となります。
以下の表を見て、まずはご自身の症状が後遺障害等級の何級何号になる可能性があるのかのイメージをつかんでおくといいでしょう。
【平成22年6月10日以降発生の事故に適用する表】
自動車損害賠償保障法施行令別表第1
等級 | 介護を要する後遺障害 | 保険金額 | 労働能力損失率 |
---|---|---|---|
第1級 | 1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
4,000万円 | 100/100 |
第2級 | 1 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 2 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3,000万円 | 100/100 |
備考 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。
(注)既に後遺障害のある者がさらに同一部位について後遺障害の程度を加重したときは、加重後の等級に応ずる 保険金額から既にあった後遺障害の等級に応ずる保険金額を控除した金額を保険金額とする。
自動車損害賠償保障法施行令別表第2
等級 | 介護を要する後遺障害 | 保険金額 | 労働能力損失率 |
---|---|---|---|
第1級 | 1 両眼が失明したもの 2 咀嚼及び言語の機能を廃したもの 3 両上肢をひじ関節以上で失ったもの 4 両上肢の用を全廃したもの 5 両下肢をひざ関節以上で失ったもの 6 両下肢の用を全廃したもの |
3,000万円 | 100/100 |
第2級 | 1 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの 2 両眼の視力が0.02以下になったもの 3 両上肢を手関節以上で失ったもの 4 両下肢を足関節以上で失ったもの |
2,590万円 | 100/100 |
第3級 | 1 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの 2 咀嚼及び言語の機能を廃したもの 3 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 4 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服す ることができないもの 5 両手の手指の全部を失ったもの |
2,219万円 | 100/100 |
第4級 | 1 両眼の視力が0.06以下になったもの 2 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの 3 両耳の聴力を全く失ったもの 4 1上肢をひじ関節以上で失ったもの 5 1下肢をひざ関節以上で失ったもの 6 両手の手指の全部の用を廃したもの 7 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
1,889万円 | 92/100 |
第5級 | 1 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの 2 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 3 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 4 1上肢を手関節以上で失ったもの 5 1下肢を足関節以上で失ったもの 6 1上肢の用を全廃したもの 7 1下肢の用を全廃したもの 8 両足の足指の全部を失ったもの |
1,574万円 | 79/100 |
第6級 | 1 両目の視力が0.1以下のなったもの 2 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの 3 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 4 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 5 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 6 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 7 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
1,296万円 | 67/100 |
第7級 | 1 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの 2 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 3 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 4 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 6 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又は4の手指を失ったもの 7 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を廃したもの 8 1足をリスフラン関節以上で失ったもの 9 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 10 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 11 両足の足指の全部の用を廃したもの 12 外貌に著しい醜状を残すもの 13 両側の睾丸を失ったもの |
1,051万円 | 56/100 |
第8級 | 1 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの 2 脊柱に運動障害を残すもの 3 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの 4 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの 5 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの 6 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 7 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 8 1上肢に偽関節を残すもの 9 1下肢に偽関節を残すもの 10 1足の足指の全部を失ったもの |
819万円 | 45/100 |
第9級 | 1 両目の視力が0.6以下になったもの 2 1眼の視力が0.06以下になったもの 3 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4 両目のまぶたに著しい欠損を残すもの 5 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 6 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの 7 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 8 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 9 1耳の聴力を全く失ったもの 10 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 11 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 12 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの 13 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの 14 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの 15 1足の足指の全部の用を廃したもの 16 外貌に相当程度の醜状を残すもの 17 生殖器に著しい障害を残すもの |
616万円 | 35/100 |
第10級 | 1 1眼の視力が0.1以下になったもの 2 正面を見た場合に複視の症状を残すもの 3 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの 4 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 6 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 7 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの 8 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの 9 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの 10 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 11 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
461万円 | 27/100 |
第11級 | 1 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 4 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 6 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 7 脊柱に変形を残すもの 8 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの 9 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの 10 胸腹部臓器に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
331万円 | 20/100 |
第12級 | 1 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 4 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの 5 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 6 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 7 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 8 長管骨に変形を残すもの 9 1手のこ指を失ったもの 10 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 11 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの 12 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 13 局部に頑固な神経症状を残すもの 14 外貌に醜状を残すもの |
224万円 | 14/100 |
第13級 | 1 1眼の視力が0.6以下になったもの 2 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの 3 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 5 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 6 1手のこ指の用を廃したもの 7 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの 8 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの 9 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの 10 1足の第2の足指の用を廃したもの、2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの 11 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
139万円 | 9/100 |
第14級 | 1 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 2 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 3 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 4 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 5 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 6 手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの 7 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの 8 足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの 9 局部に神経障害を残すもの |
75万円 | 5/100 |
備考
① 視力の測定は、万国式試視力表による。屈折異状のあるものについては、矯正視力について測定する。
② 手指を失ったものとは、おや指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものをいう。
③ 手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(おや指にあたっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
④ 足指を失ったものとは、その全部を失ったものをいう。
⑤ 足指の用を廃したものとは、第一の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失ったもの又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第一の足指にあたっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
⑥ 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。
(注1)
後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の該当する等級による。しかし、下記に掲げる場合においては等級を次の通りに繰り上げる。
① 第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を1級繰り上げる。ただし、それぞれの後遺障害に該当する保険金額の合算額が繰り上げ後の後遺障害の保険金額を下回るときはその合算額を保険金額として採用する。
② 第8級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を2級繰り上げる。
③ 第5級以上に該当する後遺障害が2つ以上あるときは、重い方の後遺障害の等級を3級繰り上げる。
(注2)
既に後遺障害のある者がさらに同一部位について後遺障害の程度を加重したときは、加重後の等級に応ずる保険金額から既にあった後遺障害の等級に応ずる保険金額を控除した金額を保険金額とする。
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「症状固定」とは、どういう状態か?
症状固定とは?
後遺症があると認められるということは、ある時点で、これ以上治療をしても治療効果が上がらないと医師が判断することです。
この時点を、症状固定といいます。
症状固定となった場合には、医師に「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」(以下「後遺障害診断書」とします)を書いてもらって、自分の後遺症が、上記の後遺障害等級の何級何号に当たるのかを審査してもらうことになります。
症状固定の判断の際の注意点
失明や手足の切断のように、症状固定の時期がわかりやすいものはいいのですが、運動障害や神経障害など、症状固定の時期が明確に決められないものは注意が必要です。
症状固定というのは、その時点で被害者の損害が確定したということになりますので、その後もし治療を続けたとしても、原則としてその後の治療費は加害者に請求できません。
また、入通院の慰謝料は、入通院期間を基に算定しますが、入通院期間とは、治療を開始した日から症状固定日までとなりますので、その後通院したとしても、それに対する慰謝料は請求できません。
よく加害者の任意保険会社から、「治療を始めてしばらく経つから、症状固定にして後遺障害の申請をしましょう」と言われ、あまり考えずすぐその言葉に従ってしまう被害者の方もいます。
しかし、症状固定というのは、前述のように、重要な意味を持ちますので、本当に治療によってもう改善の余地はないのかどうか、医師とよく話し合って決めなければなりません。
保険会社が症状固定をすすめてきたとしても、まだ治療効果が上がっているのであれば、医師からまだ治療が必要であることを保険会社に伝えてもらったり、診断書を書いてもらったりして、治療を継続することが必要です。
そのためには、治療の段階から医師に自覚症状を伝えるなどコミュニケーションをとり、良好な関係を作っておくことも大切です。
後遺障害等級は、どうすれば認定されるか?
※こちらの動画でも解説しています。
医師に症状固定と診断され、後遺障害診断書を書いてもらったら、後遺障害等級の申請をすることになります。
後遺障害等級は、損害保険料率算出機構(以下「損保料率機構」とします)という機関が認定しますが、実際には、損保料率機構から依頼を受けた自賠責調査事務所が具体的な調査を行っています。
後遺障害等級を認定してもらいたい場合には、損保料率機構に申請することになるのですが、申請の方法としては、事前認定と被害者請求の2つの方法があります。
事前認定のメリットとデメリットとは?
事前認定は、加害者の加入している任意保険会社を通して申請する方法です。
自動車の保険は、強制保険である自賠責保険と、任意で加入する任意保険があります。
自賠責保険の保障は定額で、死亡事故の場合上限は3000万円、常に介護が必要な後遺障害等級1級の場合の上限は4000万円です。
しかし、死亡事故や後遺障害等級1級の場合、損害賠償額は、5000万円以上や1億円、場合によっては2億円以上など、自賠責の上限額ではとても補えない場合が多いです。そこで、自賠責の上限額を上回った部分について保障されるのが、任意保険です。
現代では、さまざまな自動車保険会社があり、自動車を運転する人の多くは任意保険に加入しており、加入率は、70%程度とされています。(平成27年 損保料率機構資料参照)
そして、任意保険会社は、任意一括払いサービスとして、任意保険会社の負担分の損害賠償額と、本来自賠責保険で支払われるべき損害額を、被害者に一括して支払う方法をとっています。ですので、事故後に加害者の任意保険会社の担当者から連絡がきて、治療から示談まで、任意保険会社が主導して手続が進んでいくことが多いのです。
任意保険会社が一括払いを行う場合は、被害者に賠償金額を支払った後で、自賠責保険に本来自賠責保険会社が負担するべき金額を請求することになりますが、もし自賠責保険の支払の対象にならない部分まで任意保険会社が支払ってしまうと、任意保険会社が損をすることになります。
そこで、被害者の症状が、自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうか、該当する場合が何級なのかを自賠責保険に事前に確認しておくことが必要になってきます。これが事前認定です。
事前認定のメリットは、任意保険会社が行ってくれるので、被害者が自分ですることはなく、手続きが楽であるということです。
デメリットは、被害者が後遺障害等級を申請することの意味や、その後の流れなどを理解していないうちに手続きが進められてしまったり、どのような書類が提出されているのかなどが把握できなかったり、提出書類に不足があったために正しい等級が認定されない場合があったりすることです。
損害賠償額は、認定された後遺障害等級を基に算定されますので、もし後遺障害等級が間違っていて、実際の症状より軽く評価されてしまった場合には、損害賠償額が本来もらえる額より少なくなってしまい、被害者が損をすることになってしまうのです。
被害者請求のメリット、デメリットとは?
後遺障害等級の申請方法のもう1つは、被害者が、加害者の加入している自賠責保険会社に直接申請する方法で、被害者請求といいます。
被害者請求のメリットは、事前認定のように任意保険会社が主導権を握るのではなく、被害者が主導権を握ることになるので、手続きの流れや、提出する資料などを被害者が把握することができることです。
また、後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた損害賠償金が自賠責から被害者に直接支払われますので、示談の前にまとまった金額を受け取ることができ、その後の交渉を余裕をもって進められるというメリットもあります。
デメリットは、被害者が自分で請求を行うので、資料を集めたりと手続に手間がかかることです。
また、後遺障害等級の審査は基本的に提出された書面のみで審査され、提出していない書面はないものとして扱われるため、自分の症状を裏付ける医学的な書面等を提出していないと、適正な認定結果がでないということもあります(このデメリットは事前認定の場合も同様です)。
ただし、被害者請求は、被害者から委任を受けた者も請求することができますので、被害者請求を弁護士等に依頼して行うこともできます。
交通事故に詳しい弁護士に被害者請求を依頼することで、上記のデメリットは解消できます。
特に高次脳機能障害など難しい後遺障害等級認定手続は、交通事故を専門とする弁護士に相談することをおすすめします。
普段から多くの交通事故案件を扱っていない弁護士では、高次脳機能障害など難しい後遺症について理解していない場合が多いと思われるためです。
被害者請求の具体的な方法は、まずは交通事故証明書で加害者が加入している自賠責保険会社を調べて連絡し、被害者請求をしたいので資料を送ってもらうよう伝えると、用紙一式を送ってもらえるので、そこに記載されている必要書類を提出します。
主な必要書類としては、以下のものが挙げられます。
後でまた説明しますが、後遺障害等級の認定のポイントとなる書面は、被害者が目指している後遺障害等級が認定されるために必要な診断書や検査結果、レントゲンやMRI画像、意見書等の医学的な資料です。
<被害者請求の必要書類>
・支払請求書兼支払指図書
・交通事故証明書
・交通事故発生状況報告書
・診断書
・診療報酬明細書
・通院交通費明細書
・休業損害証明書
・印鑑証明書
・委任状(被害者本人が請求できないとき)
・自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
・レントゲン、MRI画像等
・その他症状を裏付ける検査結果や意見書等の医学的な資料
後遺障害等級の申請の際に注意すべきポイントとは?
後遺障害等級を申請する場合には、自分のどの症状がどの後遺障害等級に該当する可能性があるのかを把握して、それに必要な医学的な書面を提出しなければなりません。
たとえば、肩を骨折して、肩が動かしづらくなったという後遺症が残った場合、肩関節の可動域制限の後遺障害は、12級6号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」、あるいは10級10号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当する可能性がありますが、後遺障害診断書にただ「肩骨折」と記載してあるだけでは後遺障害等級は認定されません。
12級6号に認定されるためには骨折した側が健康な側の4分の3に可動域が制限されていることを、10級10号に認定されるためには骨折した側が健康な側の2分の1に可動域が制限されていることを証明しなければならないのです。
そのため、後遺障害診断書の可動域を記載する欄に、屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋等の検査をしてもらって、それぞれ何度になるかを記載してもらい、それが後遺障害等級の認定の要件を満たしていることが必要です。
しかも「自動」による可動域ではなく、「他動」による可動域が重要となります。
この辺りも知った上で医師に依頼しないと、医師の中には「自動」のみ記載して書類を作成してしまうことが実際にありますので、注意が必要です。
また、むち打ちで首の痛みや肩の痛み、手足のしびれなどの症状が残った場合、神経症状として、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」あるいは12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する可能性がありますが、後遺障害診断書に、「頚椎捻挫」等の診断名と、首の痛み等の自覚症状が書いてあるだけでは、後遺障害等級は認定されません。
特に、12級13号に認定されるためには、MRI画像で神経根の圧迫等が確認でき、神経学的検査で画像と整合性のある個所に陽性の結果が出ていることが必要なため、症状に合致した画像の所見や検査結果を後遺障害診断書に記載してもわらなければなりません。
14級9号に認定されるためには、画像や神経学的検査では証明できないけれども、ケガをしたときの状態や治療の経過、自覚症状の経過等から継続性、一貫性があり、症状が事故によるケガが原因であることが医学的に推定できることが必要なため、症状の継続性、一貫性が認められるような後遺障害診断書や診断書等を提出しなければなりません。
これはほんの一例であり、後遺障害等級についてはそれぞれ細かく基準等が決められおり、後遺障害等級の認定を目指す場合には、それぞれの基準を満たすように、医師に検査をお願いしたり、書面を書いてもらったり、レントゲンやMRI画像を撮ったりと、資料を漏れなく集めて提出することが必要になります。
後遺障害等級認定には異議申立ができる!
異議申立とは?
後遺障害等級の申請をした場合、簡単な後遺障害の場合には通常1~2ヵ月(重傷の場合や判断が難しい場合はさらに数ヵ月かかる場合もあります)で結果が送られてきます。審査は、損保料率機構が行うことになっていますが、具体的な結果は、事前認定で申請した場合には加害者の任意保険会社から、被害者請求で申請した場合には申請先の自賠責保険会社から送られてきます。
上記(4)で述べたように、自分の目指す後遺障害等級の基準を満たす資料を完璧に提出していれば、目指した後遺障害等級が認定されると思いますが、事前認定で任意保険会社に任せきりでどのような書類を提出しているかまったく知らなかったり、被害者請求を自分で行ったけれども、基準を満たす資料に漏れがあったりした場合には、納得のいく結果がでないことになります。
この場合は、損保料率機構に対して異議申立をすることができます。
具体的には、それぞれ結果を送ってきた保険会社に異議申立書等の書類を提出して行うことになります。
なお、事前認定で任意保険会社から結果が送られてきた場合でも、異議申立からは自賠責保険会社に直接行うこともできます。
その場合、事前認定から被害者請求に切り替えた、ということになります。
異議申立をする際に注意すべきポイントは?
異議申立は何度でもすることができますが、この認定はおかしいという不満や、自覚症状がいかにつらいかなどについて書いた書面のみを提出しても、結果は変わることはありません。
結果の理由をよく見て、なぜ後遺障害等級が認定されなかったか、あるいは認定されているとしてもより軽い等級になってしまっているのはなぜかをよく検討し、その理由を覆すような新たな医学的な証拠を提出しなければなりません。
たとえば、後遺障害等級が認定されなかった理由が、他覚的所見(検査等に基づく医師の見解などのことをいいます)に乏しいということであれば、新たな検査結果や画像、医師の診断書、意見書等の書面を提出しなければなりません。
紛争処理申請とは?
損保料率機構に異議申立をしても納得のいく結果がでなかった場合には、自賠責保険・共済紛争処理機構(以下「紛争処理機構」とします)に紛争処理申請をすることができます。
紛争処理機構は、自賠責保険や共済保険の支払いに関し、被害者や保険・共済の加入者と保険会社・共済組合との間で生じた紛争について、公正かつ適確な解決による被害者の保護を目的として設立された指定紛争処理機関です(自動車損害賠償保障法23条の5)。
紛争処理機構は損保料率機構とは別の機関ですので、損保料率機構に何度か異議申立をしても結果が変わらなかった場合でも、紛争処理機構で別の結果がでることもあります。
ただし、損保料率機構への異議申立は、時効期間内であれば何度でも行うことができるのに対し、紛争処理機構への申請は一度きりしかできません。
それで納得のいく結果が出なかった場合には、裁判を起こすしかなくなります。
弁護士など専門家への相談
今までご説明してきたように、交通事故で後遺症が残った場合、後遺障害等級に認定してもらうためには、後遺障害等級が何級に該当するのか、それを証明するために必要な医学的な資料はどのようなものかなど、とても高度で専門的な知識が必要になるのです。通常被害者の方にはそのような知識はないでしょう。
ですので、後遺症を認めてもらうための裁判を行いたい方はもちろんですが、治療中でも後遺症が残りそうな方や、後遺障害等級の申請をしたい方、認定された後遺障害等級が適正なものかどうか判断してもらいたい方、異議申立や紛争処理申請を行いたい方は、ご自身が損をしないためにも、交通事故に詳しい弁護士などの専門家へ一度ご相談されることを強くおすすめします。
ここまでで、「ひとまずは、弁護士に無料相談してみよう」と思った方は、こちらから。