遷延性意識障害(植物状態)の示談・裁判手続き
成年後見制度とは
遷延性意識障害(植物状態)になってしまったときは、示談をする能力が全くない状態です。
そうなると、 被害者が示談や裁判の当事者となることができません。
そのため、この場合には原則として、家庭裁判所に成年後見開始の審判手続を行わなければなりません(状況によって補佐人、 補助人の選任もありえます。)
その結果選任された成年後見人が、本人に代わり示談や訴訟を行うこととなるのです。
成年後見制度の区分
成年後見制度は、本人の判断能力の程度によって、次のように区分されます。
(1)本人の判断能力が全くない場合
→後見
(2)本人の判断能力が特に不十分な場合
→保佐
(3)本人の判断能力が不十分な場合
→補助
(1)後見
成年後見とは、本人が一人で日常生活をすることができない等、本人の判断能力が全くない場合になされるものであり、 後見開始の審判とともに、本人(「成年被後見人」という。)を援助する人として成年後見人が選任されます。
この場合には、 成年後見人が本人を代理して示談や訴訟を行うことになります。
(2)保佐
保佐とは、本人の判断能力が失われていないものの、特に不十分な場合になされるものであり、保佐開始の審判とともに、本人( 「被保佐人」という。)を援助する人として保佐人が選任されます。
保佐開始の審判を受けた本人は、一定の重要な行為(金銭の貸借、不動産及び自動車等の売買、自宅の増改築等)を、保佐人の同意なしに、 本人が単独で行うことができなくなります。
交通事故の損害賠償については、保佐人に代理権が与えられる場合もありますが、 本人の同意が必要です。
(3)補助
補助とは、本人の判断能力が不十分な場合になされるものであり、補助開始の審判とともに、本人(「被補助人」という。) を援助する人として補助人が選任されます。
補助人は、本人が望む一定の事項について、同意、取消、代理をすることで、本人を援助していきます。交通事故の損害賠償では、 補助人に代理権が付与されることがありますが、本人の同意が必要です。
どの申立をするか
遷延性意識障害(植物状態)の時は、当然に後見の申立をすることになりますが、高次脳機能障害の場合には、後見、保佐、 補助のどの申立をすれば良いのかわからない場合があります。
この場合には、主治医の先生の意見を参考にして、とりあえず、 近そうな類型の申立をすることになります。
もちろん、裁判所に提出してから、裁判所から、類型が異なる旨の指摘を受ける場合があります。
しかし、その場合には、 申立をやり直す必要はありません。「申立の趣旨」の変更手続を取ればよいのです。
したがって、まずは感覚で申立をし、その後は裁判所の指示に従って変更等をしていけば良いと思います。
なお、これらの手続には、主治医の鑑定書が必要となります。
事前に主治医に対して、 手続についての協力を依頼しておく方がスムーズに進むでしょう。
その他
これらの手続きのために必要となった費用は、別途交通事故による損害金として請求することが認められています。
なお、自賠責保険では、問題が生じた場合には一切の責任を負うとの内容の念書を提出したうえ、成年後見人ではない者(通常は親族) が保険金を受け取れる場合があります。
常に成年後見手続が必要とすると、手続に長期間を要したりして、 被害者保護に欠ける結果となってしまうからです。