交通事故被害者のために弁護士が慰謝料を増額

体質的素因減額の場合

交通事故の前から被害者が罹患していた既往症が、交通事故を契機として発症し、または他の部位に変性を出現させて損害を拡大させた場合、あるいは、被害者の体質的な特徴が、交通事故と相まって損害を拡大させたとします。


この場合に、裁判所が認定する損害賠償額が、結果として拡大された損害額全額となるのか、あるいは一定の減額事由となるのか、という問題が体質的素因減額の問題です。

この点に関しては、比較的新しい3つの最高裁判決があります。


最高裁平成4年6月25日判決(判時1077号82頁他)

事案
(一酸化炭素中毒にかかった1ヶ月後に交通事故にあい、その後精神障害を呈して最終的には事故の約1ヶ月後に呼吸麻痺を直接の原因として死亡した事案)

「被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である。けだし、このような場合にいおいてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである。」

「本件事故後、(被害者)が前記精神障害を呈して死亡するに至ったのは、本件事故による頭部打撲傷のほか、本件事故前に罹患した一酸化炭素中毒もその原因となっていたことが明らかである。そして、原審は、前記事実関係の下において、(被害者)に生じた損害につき、右一酸化炭素中毒の態様、程度その他の諸般の事情をしんしゃくし、損害の50%を減額するのが相当であるとしているのであって、その判断は、前示したところに照らし、正当として是認することができる。」


最高裁平成8年10月29日判決(交民集29巻5号1272頁、評釈として、判タ947号93頁)

事案
(交通事故前から被害者は、頸椎後縦靱帯の骨化が進行し、神経症状を起こしやすい状態にあったところ、本件事故による衝撃を受けて頚部運動制限、頚部痛などの症状が発現した事案)

ちなみに、「後縦靱帯骨化症」とは、「医学大辞典」(医学書院)によると、「脊柱後縦靭帯の骨化変性」であり、「変性は頸椎に多いが胸腰椎のこともある。」「無症状のものから根症状を呈するもの,上肢感覚・運動障害,歩行障害,膀胱直腸障害など重篤な神経症状を示すものまで多彩である。」「原因は不明」とのことである。

大阪高裁は、全額賠償を認めましたが、最高裁は、下記のように判示して、大阪高裁判決を破棄し、差し戻しました。


「被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができることは、当裁判所の判例(最高裁昭和63年(オ)第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁)とするところである。そしてこのことは、加害行為前に疾患に伴う症状が発現していたかどうか、疾患が難病であるかどうか、疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由があるかどうか、加害行為により被害者が被った衝撃の強弱、損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者の多寡等の事情によって左右されるものではない」。

被害者の「本件疾患は頸椎後縦靱帯骨化症であるが、本件において(被害者)の罹患していた疾患が(被害者)の治癒の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明白であるというのであるから、たとい本件交通事故前に右疾患に伴う症状が発現しておらず、右疾患が難病であり、右疾患に罹患するにつき(被害者)の責めに帰すべき事由がなく、本件交通事故により(被害者)が被った衝撃の程度が強く、損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多いとしても、これらの事実によりただちに(加害者)に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときに当たらないとはいえず、損害の額を定めるに当たり右疾患を斟酌すべきものではないということはできない。」


最高裁平成8年10月29日判決(判時1182号283頁他)

事案
(被害者は、平均的体格に比して首が長く多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有していたところ、この身体的特徴に本件事故による損傷が加わって、左胸郭部出口症候群の疾患やバレリュー症候群を生じた。
バレリュー症候群については、少なくとも同身体的特徴が同疾患に起因する症状を悪化ないし拡大させた事案)



「バレリュー症候群」とは、「医学大辞典」(医学書院)によると、「第3†4頸椎の関節炎や外傷,椎間板ヘルニアによる第5†8頸神経の刺激によって,頭痛,眼痛,視力障害,耳痛,耳鳴,めまい,顔面の血管運動性障害,時に嚥下や構音障害を起こすもの」です。


福岡高裁は、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して被害者の首が長いという素因及び心因的要素を斟酌し、損害のうち4割を減額しました。

しかし、最高裁は、以下のように判示して、素因減額するべきではないとして破棄差し戻しました。


「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。これを本件についてみるに、(被害者)の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、前記特段の事情が存するということはできず、右身体的特徴と本件事故による加害行為とは競合して(被害者)の右傷害が発生し、又は右身体的特徴が(被害者)の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない。」

上記のような体質的素因減額を認めるべきかどうかは、かなり争われていたところでした。

最高裁は、減額の法的根拠として民法722条2項の類推を使いますが、民法722条2項は、被害者に過失があるときの過失相殺の規定です。

上記のように、被害者に過失がないときにまで722条2項の類推を認めることについては、理論上大いに疑問があります。

しかし、上記3つの最高裁判例が出てしまった以上、その後実務は確実に上記最高裁判例に則ったものになっています。


そこで、上記最高裁判例を分析し、その枠内での増額賠償を目指していかなければなりません。

上記3判例からは、以下の公式が導かれます。


1. 被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができる。


2. 「加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するとき」というけれども、被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合においては、自動的に訴因減額に傾いてしまい、むしろ被害者側で、加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときに当たらないという事実を立証しなければならない。そして、下記事情は、公平を失するときに当たらないという事実には該当しない。

(1) 加害行為前に疾患に伴う症状が発現していない。
(2) 疾患が難病である。
(3) 疾患に罹患するにつき被害者の責めに帰すべき事由がない。
(4) 加害行為により被害者が被った衝撃が大きいこと。
(5) 損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多数いること。


3. しかし、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない。


以上から考えると、交通事故時に「疾患」があり、それが損害拡大に寄与したと認定された場合には、かなり高い確率で素因減額がなされ、「身体特徴」と認定された場合には全額賠償が受けられるということになります。

ちなみに、「疾患」とは、「医学大辞典」(医学書院)いよると、「患者が自覚する不快感,痛み,脱力感などの症状と,原因,徴候,経過から客観的に証明される臨床病像からなる,異常な機能的変化あるいは器質的変化をいう。」とあります。

そして、損保料率機構の後遺障害認定は、ほとんど書類審査であり、その書類とは、病院から取り寄せた書類ということになります。そして、その中でも主治医が書く診断書が大きく影響することになります。

訴訟になったときの裁判所の認定も同様です。

主治医が書く診断書に疑義が呈されない限りは、診断書でほぼ決まります。ところが、主治医は、このような素因減額理論を前提に診断書を記載するわけではないので、往々にして、安易に疾患名を記載されてしまうことがあります。

したがって、増額賠償を目指すときには、「既往症」などと安易に記載させることは絶対に避けなければなりません。

(もちろん本当に既往症だったら仕方ないですが。)身体的特徴にしなければならないのです。診断書は、損保会社に取らせず、自分で主治医と相談して作成してもらいましょう。主治医も上記のような素因減額理論を理解していただければ、決して安易に診断書を作成することはないはずです。このちょっとした違いで、賠償額が数十%も異なってきてしまうのです。

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