後遺症(後遺障害)逸失利益の基礎収入(個人事業主)
交通事故における逸失利益の算定(基礎収入)
事業所得者の後遺症逸失利益算定のための基礎収入は、以下のとおり。
①原則として申告所得額とする。
②申告額と実収入額が異なる場合は実収入額を立証できれば実収入額とする。
③所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで獲得された場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合による。
④現実収入が平均賃金以下であっても、平均賃金が得られる蓋然性があれば男女別の賃金センサスによる。
⑤現実収入が証明困難なときは、各種の統計資料によることもある。
◆事故の三ヶ月前に開店した居酒屋経営(男・症状固定時56歳)の人工骨頭を挿入置換
(自賠責では一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したものとして8級7号、左下肢短縮として13級9号で8級7号適用であったが、
裁判所は一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの、と認めた)につき、
居酒屋を開店する前はスナックを20年近く営業しており、月30万円程度の収入を得ていたこと、居酒屋の売り上げは、
3ヶ月間で434万4971円であったが、従業員の給料等を支払うと利益が出るまでの状態にはなかったことから、平均賃金は適用できず、
基礎収入は従前の収入に基づき年360万円とし、平均余命の2分の1である12年間にわたり労働能力喪失率27%を認めた事例
(東京地裁平20.2.4、交民41・1・148)
◆ペットショップ経営者(男・症状固定時44歳)の解離性健忘、特定不能の認知障害(9級10号)につき、 大学を卒業しているが大学卒業男性の平均賃金を得ていた蓋然性はないこと、経営者であること、16年以上経営が続いていたことから、 基礎収入を症状が固定した平成14年の賃金センサス男子全労働者の平均賃金555万4600円とし、67歳まで労働能力喪失率35% を認めた事例(神戸地裁平20.1.29、交民40・1・102)
◆建設自営業(男・症状固定時37歳)の精神および神経系統に著しい障害(5級2号)、一上肢の三大関節中の一関節に著しい機能障害 (10級10号)、聴力障害(14級3号)、嗅覚脱失(12級)の併合4級につき、交通事故前年の申告所得は307万9795円、 前々年は196万2159円と低かったが、32歳時は賃金センサス男子年齢別(30~34歳) の平均額516万9200円を上回る574万1496円であったものの、34歳、35歳時にいは賃金センサスの統計値に収入であったこと、 ただしこれらの年の営業収入は7000万円を超えるものであったこと、平成12年(33歳時)以降、 被害者の事業環境が特別悪化した事情はないこと、原価や経費計上された金額の一部に個人使用分が含まれていたであろうこと、から、 基礎収入を平成15年(事故時)の賃金センサス男子年齢別(35歳~39歳)平均賃金の576万8600円とし、 67歳まで労働能力喪失率92%を認めた事例(神戸地裁平18.11.17、交民39・6・1620)
◆画家(男・症状固定時61歳)の右手指の神経症状(12級12号)、右肩関節に14級10号)の併合12級につき、 交通事故前年の売上が851万円、申告所得額は275万円であったこと、事故前は絵の売上は年間600万円程度であったこと、 画家としてはまだ無名であって、売上も継続的な購入が期待できる顧客は少ない上、特定の顧客への依存度が高く、 今後も同様の売上を確保できるかははっきりしていないこと、より売上の60%にあたる年収510万6000円を基礎収入とし、 平均余命の2分の1にあたる9年間にわたり、労働能力喪失率50%を認めた事例(大阪地裁平18.6.16、交民39・3・786)
◆米穀・LPガス・灯油の販売業者(男・症状固定時56歳)の右第三、四趾欠損(13級10号)につき、 確定申告上は交通事故以前から大幅な赤字であり、所得はないこととなること、実際の所得も明らかでないこと、 本件交通事故により現実に労働能力の一部を喪失し、そのことと被害者の事業縮小とが無関係であるとまでもいないこと、 家族が営業に寄与している面もあること、により、 基礎収入を平成14年各種商品小売業者全労働者平均賃金である459万1200円の7割である321万3840円とし、 67歳まで労働能力喪失率9%を認めた事例(大阪地裁平18.6.14、交民39・3・764)
◆花屋自営業(女・症状固定時30歳)の嗅覚脱失(12級相当)、頭部外傷後の神経系統の障害(12級12号)の併合11級につき、 交通事故の前々年に花屋を開店した直後の売上は少額であり、交通事故前年分の確定申告上の売上は認められないこと、 花屋の売り上げが顧客の増加によって前年よりも大幅に増えたと認められること、被害者は、25歳から26歳時には、 平成14年賃金センサスの女子高専・短大卒年齢別(25歳~29歳) 平均賃金である351万6800円よりも高額である年収387万円を得ていたこと、被害者が当該会社でアルバイトとして稼働しているところ、 仮に花屋の営業による所得が低額であるならば、当該会社に正社員として復帰できる蓋然性もあると認められること、より、 基礎収入を平成14年賃金センサス女子高専・短大卒全年齢平均賃金である383万3400円とし、10年間は労働能力喪失率20%、 その後67歳までは14%と認めた事例(東京地裁平18.3.14、交民39・2・326)
◆材木の仕入れ販売業(男・症状固定時72歳)の右膝の痛み、可動域のわずかな制限(14級10号)につき、 交通事故前年の申告所得額は170万円であるものの、年額260万円あまりを借金返済していること、 交通事故当時妻と孫2人の4人で生活していたこと、より基礎収入を男子年齢別平均賃金の385万3800円とし、5年間労働能力喪失率5% を認めた事例(大阪地裁平18.2.10、交民39・1・156)
◆競艇選手兼会社役員(男・症状固定時45歳)の高次脳機能障害(2級3号)につき、交通事故当時最上級のA1クラスに属し、 交通事故前の3年間の申告所得額は、全競艇選手の年齢別(40歳~44歳)の平均年収の約1.5倍である3455万円3502万円、 3276万円であったこと、症状固定後10年間は選手として稼働可能であること、 から選手としての基礎収入を症状固定後3年間は事故前の平均年収2204万9878円、その後7年間は選手の平均年収の1. 5倍である1642万円、56歳から67歳までは、 平成14年賃金センサスによる男子労働者の対応年齢の平均年収により算出すべきであるとし、会社役員部分については、 競艇選手として稼働できたであろう10年間につき、交通事故前の平均報酬93万円を認めた事例(広島地裁平17.9.20、 判例時報1926・117)
◆日給制で雇用されている塗装工(男・症状固定時63歳)の右肩可動域制限(10級10号)につき、
交通事故の前年の申告所得額は187万4060円であるが、経費としては通信費及び消耗品費程度であり、経費率は収入額の5%
程度と認められることから、所得しては収入額である603万4500円から5%の経費を控除した573万2775円を基礎収入とし、
9年間にわたり労働能力喪失率27%を認めた事例(大阪地裁平15.12.24、交民36・6・1671)
※なお、判決では、「納税義務を果たさず、不当に利得を得た上で、損害賠償請求訴訟においては、これに反する主張をすることは不誠実である」
と糾弾している。
◆無免許運送業者(男・症状固定時29歳)の逸失利益の算定に際し、 違法な運送事業による収入をもって算定することは許されないとして、平均賃金を基礎収入とした事例(和歌山地裁御坊支部昭和50.9.11、 交民8・5・1348)






