慰謝料の増額
交通事故の損害賠償の対象となる損害には、財産的損害と精神的損害があります。このうち、精神的損害が慰謝料のことです。慰謝料とは、 精神的に被った苦痛のことですから、本来事案ごと、人毎に慰謝料の額が異なるはずですが、心の中は見ることができないため、 概ね統一的な慰謝料の基準を定めて運用されています。
しかし、時と場合により、相場的な慰謝料の基準を上回る判決がなされることがあります。これには、3つのパターンがあります。
- 通常の場合に比べ、精神的苦痛の程度が大きいと見られる場合。
- 他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌しようとする場合。
- 被害者に特別の事情がある場合。
以下、順番に検討します。
1. 通常の場合に比べ、精神的苦痛の程度が大きい場合
これは、主に加害者側の過失の大きさや、事故後の態度の悪さ等により、事故に対する被害者の精神的苦痛が増大したと認められ、 慰謝料が増額される場合です。
加害者の過失の大きさでは、次のような事情が斟酌されて、慰謝料が増額される場合があります。
(1) 飲酒運転
(2) スピードオーバー
(3) 居眠り
(4) 無免許
(5) 信号無視
(6) 未必的故意
(7) 脇見運転
次に、加害者の事故後の態度の悪さでは、次のような事情が斟酌されて慰謝料が増額される場合があります。
(1) 不自然、不合理な供述(否認)
(2) 謝罪なし
(3) 証拠隠滅(同乗者に虚偽証言強要、事故後に飲酒等)
(4) 救護せず
(5) 逃走、ひき逃げ、逃走しようとする
(6) 加害者側からの訴訟提起
(7) 被害者に責任を転嫁するような言動
上記のような慰謝料の増額事由があるときは、迷わず慰謝料の増額事由を主張して、増額賠償を勝ち取らなければなりません。民事訴訟では、 「弁論主義」というものがあり、主張しない以上、裁判所は取り上げてくれないのです。
2. 他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌しようとする場合。
これは、「慰謝料の補完的作用」と呼ばれるものです。たとえば、ホステスの外貌醜状事案や歯牙傷害事案、生殖機能障害、 嗅覚障害等で後遺障害が認定されても、後遺症逸失利益が算定しにくいような場合に、後遺症逸失利益を認めず、慰謝料を増額することにより、 結果としての賠償額のバランスを取ろうとする手法です。また、将来手術を行うことは確実であるが、どの程度の時期・ 費用になるのか不明であり、手術により失われる労働能力も判然としない場合にも、それら損害は認めず、慰謝料を増額することにより、 結果としての賠償額のバランスを取ろうとします。
したがって、損害算定において、上記のような事情が認められるならば、念のため、慰謝料の請求において、 予備的にでも上乗せして請求しておかなければなりません。
但し、裁判所による損害費目間の流用(上記の例でいえば、逸失利益を認めず、その代わり原告の主張する以上の慰謝料を認める等) は認めるられる扱いですので(最高裁昭和48年4月5日・民集27・3・419)、それを期待してもいいのですが、注意が必要です。
3. 被害者に特別の事情がある場合。
被害者に特別の事情があり、通常の場合に比べ、被害者の無念さがより大きいものと認められ、慰謝料が増額された事案です。 次のようなものがあります。
(1) 人工妊娠中絶
(2) 将来音楽教師になる夢を持ち努力したことが水の泡となった。
(3) 被害者の子が重度の肢体不自由児であったが、事故により子の訓練介護ができなくなり、子の身体機能に後退が見られた。
(4) 婚約破棄
(5) 離婚
上記事案は類型化できませんが、被害者側に何らかの特別事情があった場合には、裁判所は、杓子定規ではなく、 事案に応じた慰謝料を認定してくれることを示しています。もちろん、金額的には、精神的苦痛を満足させるほどの金額は到底でませんが、 それでも主張すべきところは主張した方が良いでしょう。
日本の裁判所が認める慰謝料は低すぎます。慰謝料を増額させる努力をしましょう。






