時効の中断
※ 時効はどのような場合に中断するか
損害賠償請求権の時効は、途中で中断させることができます。時効が中断すると、それまで進行した時効は無効になり、 中断事由が終了した時点で、またゼロからスタートします。
たとえば、交通事故の治療が完了し、症状固定した場合、そこから2年後、加害者が賠償債務を認めて一部を支払った場合、 時効中断事由の「承認」にあたり、その時点で、2年間進行した期間は無効になって、支払ったときから3年が時効となります。
時効中断事由には、次のようなものがあります。
① 請求(普通に「支払え」と言うだけでは請求ではなく、裁判を起こしたり、差押えをしたり、という行為が必要です。)
② 差押え、仮差押え又は仮処分
③ 承認
④ 催告(民153条)
※ただし、催告の場合は、催告から6ヶ月以内に訴訟等本格的な請求をしなければ、効力を失います。
◆時効中断事由-請求
1 通常の請求
名古屋地裁 平成4年12月25日判決
本件事故が平成元年1月15日発生したことは争いがないが、本件記録によれば、原告らは、被告らから、
本件事故による損害賠償債務が原告宏につき76万円、
原告フミ子につき246万9600円を超えないことを理由として提起された債務不存在確認請求事件(当庁平成2年ワ第3025号。
本件の本訴事件)において、右事実発生の日から3年が経過する以前の平成2年11月28日その口頭弁論期日で、
いずれも請求棄却の裁判を求める旨の答弁をし、その理由として、右債務額が被告ら主張の金額を超える旨を主張していると認められるところ、
右主張に理由があることは、前示1ないし4の判断のとおりである。
そうすると、本件損害賠償債務は、右請求棄却の答弁により、その全部につき時効の進行が中断している
2 一部請求
大阪地裁 平成9年11月10日判決
たしかに、森田は、甲事件訴状において、三恵屋に対し、本件事故による損害賠償請求権について、内金100万円として請求した
(当裁判所に顕著)。
しかしながら、右請求をもって、1個の債権の1部についてのみ判決を求める趣旨が明示されているとはいえない。なぜなら甲事件訴状において、
森田は、「治療の経過を見ながら後日請求の拡張をする予定である。」との記載をした上、内金請求をしているところ、
かかる場合には不法行為損害賠償請求権の特殊性に鑑み、特に残部は当該訴訟では請求しない態度が明らかにされていない限り、
森田の人身損害に関する損害賠償請求権は、甲事件の訴え提起時において、
全部について時効中断の効力を生じたものと解するのが相当であるからである。したがって、三恵屋の主張は理由がないというべきである。
◆ 時効中断事由-承認
1 肯定例
① 東京地裁 平成15年9月30日判決
交通事故の被害者である被告(反訴)ら3名の答弁書に損害額が明示されていないことをもって、裁判上の請求には当たらないと原告(加害者)
が主張する事案で、被告ら3名が各々116万円~118万円の損害額を主張するが、
原告はこれらに相当する損害賠償債務がないことの確認を求めたのが本訴である債務不存在確認請求訴訟であり原告(加害者、
債務不存在確認訴訟)は、平成10年7月3日、被告ら3名を相手方として、東京簡易裁判所に対し、
原告が被告ら3名に支払う賠償金額についての本件調停を申し立て、被告ら3名はそのころ同裁判所から送付された申立書副本を受け取った。
しかし、調停期日に被告ら3名が出頭しなかったため、同年10月9日、調停が成立しないものとして本件調停事件は終了した。
本件調停の申立書には「交通事故による賠償金額の確定調停事件」と記載があり、申立の趣旨は
「申立人が相手方らに支払う賠償金額につき調停をされたい。」とし、申立の実情では、被告ら3名が、原告の従業員の事故により受傷し、
原告が治療費の一部を支払ったこと、原告は、被害を補償すべく交渉したが、領収書等を交付せず、金を支払えと要求するのみなので、
妥当な支払額を支払えるよう調停を申し立てた、というものであり、上記いずれの記載も、
原告に被告ら3名に対する本件事故に基づく損害賠償責任があることを前提としているものと解される。そうすると、原告は、
自己の損害賠償債務は認めた上で、その金額についての調停を求めたものといわざるを得ず、本件調停の申立ては債務の承認に当たり、
本件調停が不調に終わった平成10年10月9日まで時効は中断したものと解するのが相当である。
次に、本件調停が不調に終わった後新たな時効期間が進行し、平成13年10月9日の経過をもって時効期間が満了することになるところ、
被告は、その期間満了前である同年9月28日ころに本件請求書(甲1)により、原告に損害賠償の請求(催告)をした(上記ア(ウ))。
そして、原告が平成14年1月28日に本訴を提起したところ、被告ら3名はこれに対し、上記請求(催告)
から6か月が経過する前である同年3月22日に、原告の本訴状の主張中、被告ら3名が外傷性頸部症候群と診断されたこと、
被告ら3名で350万円の請求書を送ったこと、及び被告ら3名の請求は3名で350万円であることを認め、その余は否認ないし争うとして、
原告の債務不存在確認を求める請求を棄却する旨の答弁書を当裁判所に提出した(原告訴訟代理人は、
本件請求書による催告から6か月以内である同月26日に答弁書副本を受領した。)。
以上のとおり、被告ら3名は、時効期間が満了する前に、裁判外で原告に催告をし、
その後6か月以内に答弁書により上記主張をして本訴に対し応訴したところ、これは裁判上の請求に準ずるものとして、
時効は中断したものと認めるのが相当である。
② 大阪地裁 平成16年9月22日判決
原告と被告との間の調停事件において、被告が平成12年4月3日の調停期日に(証拠略)(損害額計算書)
を提出したことは被告も認めているところ、(損害額計算書)には、損害賠償債務が存在することを前提に治療費、休業補償、
後遺障害逸失利益等の損害項目別に損害額を計上し、その合計額に寄与度(素因)減額及び既払額を控除して、提示額を1,
100万円とする旨記載しており、被告は、原告に対し、本件損害賠償債務の存在を認めていたことは明らかである。したがって、被告は、同日、
本件事故による損害賠償債務を承認したものと認めることができ、時効の中断があったということができる。
③ 大阪地裁 平成17年11月29日判決
被告乙山らと原告が亡Aが本件事故により死亡したことに関する損害賠償の問題について、被告保険会社が、本件保険契約(PAP)
に基づく示談代行による原告の代理として、被告乙山らと交渉していたこと
(PAPの賠償責任条項の中に示談代行が含まれること及び示談代行が被保険者のためになされるものである(代理の性質を有する)
ことは当裁判所に顕著である。)、被告保険会社は平成13年11月5日ころ、示談代行の一環として、(証拠略)を被告乙山らに送付し、
債務の存在を前提にその額を確定するため金額面の交渉を行っていたことが認められる。
以上によれば、原告主張の消滅時効は、原告の債務の承認によって中断しており~
④ 名古屋地裁 平成19年5月30日判決
原告と被告とは、本件事故後、損害賠償額について交渉し、双方で書面のやりとりがなされており、
被告代理人において損害賠償が発生することを前提に損害額を査定して提示しており、被告において、
原告の損害賠償請求権の存在を認める行為を行ったといえるから、前記提示は債務を承認したものと認められる。そして、原告は、
前記承認から3年以内に本件訴えを提起しているから、消滅時効期間が経過していない。
⑤ 大阪地裁 平成17年10月12日判決
(判旨)
前記認定の事実及び証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。
ア 症状固定の診断
上記のとおり、原告は、平成11年12月28日まで六甲アイランド病院に通院し、その後、御影外科のみに通院するようになり、
同病院において平成12年12月9日時点において症状固定した旨の診断書が発行されている(証拠略)。
イ 治療費の支払
証拠(略)によれば、被告が治療費を支払った最終の時点は平成11年5月31日までの分である(支払日は明らかでない。)。
ウ 平成13年12月28日付けの催告
証拠(略)によれば、原告は、被告の契約する東京海上火災保険株式会社に対し、
本件交通事故により生じた損害賠償に応じて欲しい旨の請求書を発送し、平成13年12月28日、同郵便が同会社に到達した。
エ 平成14年6月11日
証拠(略)によれば、被告の契約する東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、本件事故の損害賠償金として125万8,
400円の支払を申し出たことが認められる。
上記によれば、被告らは、保険会社を通じ、平成14年6月11日に債務承認行為に出ているのであるから、時効はこの時点から進行する (それ以前に時効完成していたとしても信義則上援用できない)と解するのが相当であり、その後本件提訴が平成15年12月であるから、 消滅時効は完成していない。
⑥ 東京地裁 平成12年3月8日判決
(事案)
被告は、平成5年8月5日、原告を相手方として、江戸川簡易裁判所に対し、本件事故に基づく損害賠償債務の債務額確定の調停を申し立て、
その際、被告は、本件事故に基づく損害賠償責任があることを認めるとともに、適正な債務額について支払の用意があると主張した。また、
被告は、平成5年9月28日までに、本件事故に基づく損害賠償金として3、651万4、394円を支払ったとも主張した。
(判旨)
債務を承認したものとして、消滅時効は中断したというべき
⑦ 名古屋地裁 平成2年10月31日判決
本件事故後1か月位経過したころ、原告が被告鈴木に対して本件事故の賠償交渉をもちかけたところ、
被告鈴木は一切被告会社にまかせている旨答えたこと、また、被告会社は、本件事故後、被告らに責任があることを前提に、
本件事故について原告のために労災保険の請求事務等を行ってきたことが認められる。さらに被告会社は、
本訴においても当初から消滅時効の主張はしておらず、審理の最終段階近くなって初めて右主張をしたこと(当裁判所に顕著である。
)をも併せ考えると、少なくとも、被告らは、
本訴提起以前においては本件事故による原告の損害について債務の承認をしていたものと認めることができ~
2 否定例
① 名古屋地裁 平成16年2月20日判決
原告らは、甲野が本件計算書を送付したことをもって債務の承認である旨の主張をするが、甲野が本件計算書を作成して原告らに送付したのは、
前記のとおり、自賠責保険金が被害者の相続人であれば支払われる可能性があることから、自賠責保険会社(大東京火災海上)
に対して自賠責保険金を請求することを助言し、原告ら代理人の求めに応じて自賠責保険金の積算を行ったのであり、
任意保険会社である安田火災が本件損害賠償債務を承認する趣旨ではないことは明らかである。
② 大阪地裁 平成7年6月29日判決
原告らは、
自賠責保険の損害賠償金支払いの前になされる被告への照会に対して被告が異議をとどめなかったことをもって本件事故による損害賠償請求権の承認があったものと解し、
右支払いがなされた平成3年9月24日ころ、右消滅時効は中断した旨主張する。
しかしながら、そもそも、時効中断事由としての承認とは、時効の利益を受けるべき当事者(被告)が時効によって権利を失うべき者(原告ら)
に対し、その権利の存在することを知っている旨の表示をすることであると解されているところ、原告らのいう照会とは、
自賠法所定の被害者請求があり、自賠責保険の支払いがなされる前に自動車保険料率算定会の調査事務所から被告に対し、
原告らがなした本件事故による損害賠償請求に対する意見を求めるものであり、被告が右照会に対して回答しなかったため、
自賠責保険から前記した賠償金が支払われたことが認められる(弁論の全趣旨)。右事実によれば、被告が回答しなかった右行為は、
原告らに対して向けられたものでないことは明らかであり、したがって、
被告の右行為をもって被告が原告らに本件事故による損害賠償請求権の存在を知っている旨の表示をしたものとは認めることはできず、
被告の右照会に対する不回答の行為を消滅時効の中断事由である承認と解することはできない。
以上から、結局、本件事故による損害賠償請求権の消滅時効は、平成5年10月21日の経過をもって満了したことになる。
③ 名古屋地裁 平成16年8月4日判決
時効中断事由としての承認とは、時効の利益を受ける当事者(本件の場合は被告ら)が時効によって権利を失う者(本件においては原告)に対し、
その権利の存在することを知っている旨の表示をすることであると解され、これは、時効の利益を受ける当事者本人がした場合の他、
本人の代理人がした場合も承認に当たると解される。
甲第9号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自賠責保険会社に対し、被害者請求を行い、
平成12年11月19日及び平成13年4月24日に、自賠責保険会社から原告に対し、それぞれ賠償金が支払われたことが認められる。しかし、
原告に対し、賠償金を支払ったのは被告らではなく自賠責保険会社であり、また、
自賠責保険会社が被告らの代理人等として支払をした事実も認められない。その他、
前記賠償金の支払が被告らの意思に基づくものであることを認めるに足りる証拠もない。
④ 神戸地裁 平成5年5月26日判決
原告は、
被告らは自賠責保険上の後遺障害の事前認定に際し調査事務所から原告につき併合9級の認定をする旨と自賠責保険から損害賠償金を支払う旨の通知を受け、
これに対して異議なく承認したのであるから、この承認によって消滅時効は中断している旨主張する。
しかしながら、本件全証拠を検討してみても、原告の右主張に沿う事実を認めるに足りる証拠は存在しないし、さらに、
そもそも仮に被告らが調査事務所から原告主張にかかるような通知を受けてこれに対して異議を申し述べなかったとしても、
被告らのそのような調査事務所との間の行為をもって、原告との関係において、
本件事故による損害賠償債務を承認したことになるものとは直ちに解し難いといわなければならず~
⑤ 東京地裁 平成12年4月19日判決
吉岡弁護士の求めに応じて訴外保険会社が同弁護士に対して通院交通費明細書、休業損害証明書、診断書、診療報酬明細書、
自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書の書式を記した書類を平成7年5月31日付けで送付したことは認められるが、
証人内藤は原告に対する損害賠償債務の存在をそもそも認識しておらず、これらの書類の送付をもって、
被告が原告に対して損害賠償債務を承認したとする再抗弁は失当であり、採用できない
◆時効中断事由-催告
大阪地裁 平成16年6月29日判決
裁判外で債務履行の催告を受けた者が請求権の存否について調査するため猶予を求めた場合には、民法153条所定の6か月の期間は、
その者から何分の回答がされるまで進行しないものと解するのが相当である(最高裁昭和43年2月9日第2小法廷判決・
民集22巻2号122頁参照)。これを本件についてみると、本件訴訟を提起した時点では、すでに本件事故が発生した時点から2年間、
又は本件事故が被告に通知されてから2年間が経過しているものの、前記1の認定事実によれば、原告は、被告に対し、
何度か裁判外で保険金支払の催告を行っていたのに対して、
被告において保険金請求権の存否について調査するため猶予を求めていたものと認めることができるから、民法153条所定の6か月の期間は、
原告による数次にわたる催告のいずれについても、
被告代理人によって正式に支払をしない旨の通知がされた平成15年4月25日まで進行しなかったものと解される。そして、原告は、
同通知後6か月以内の同年7月16日に本訴提起に至ったものであるから、これによって、時効の中断の効力を生じたものと認められる。
したがって、本件契約の保険金請求について、被告が消滅時効を援用することは、少なくとも信義則に反して許されないものというべきである。







