慰謝料|1級慰謝料4200万円(金沢地裁平成18年10月11日判決)

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慰謝料|1級慰謝料4200万円(金沢地裁平成18年10月11日判決)

最終更新日 2021年 02月03日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

被害者と慰謝料額

被害者:13歳女子
慰謝料額

入通院慰謝料 400万円
後遺症慰謝料 2800万円
近親者慰謝料 1000万円
(両親各500万円ずつ)

金沢地裁 平成18年10月11日判決
自動車保険ジャーナル・第1705号

(主   文)

1.被告は、原告花子に対し、8141万5170円及びこれに対する平成1 5年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2.被告は、原告一郎及び同春子に対し、それぞれ275万円及びこれに対する平 成15年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3.原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4.訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余は被告の負担 とする。
5.この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

(事実及び理由)

第一 請求

1.被告は、原告花子に対し、1億2311万6117円及びこれに対する平 成15年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2.被告は、原告一郎及び同春子に対し、それぞれ375万円及びこれに対する平成15年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

本件は、弟の運転する自転車に同乗して交差点を左折進行した際に、被告運転の自動車に衝突されて負傷した原告花子及びその両親であるその余の原告らが、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条、民法709条、同710条に基づき、損害賠償と不法行為日からの遅延損害金を請求した事案である。

争いのない事実等

(1)事故の発生
下記の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

ア. 日時 平成15年8月7日(以下「本件事故当日」という。)午前11時 8分ころ
イ. 場所 金沢市〈地番略〉(以下「本件事故現場」という。)
ウ. 加害車両 普通乗用自動車(車両登録番号(略))
エ. 上記運転者 被告
オ. 被害車両 自転車(以下「被害自転車」という。)
カ. 上記運転手 甲野三郎
キ. 上記同乗者 原告花子(平成元年9月生まれの女性)
ク. 事故の態様 交差道路を直進しようとした被告が、折から進路前方の交差点(以下「本件交差点」という。)から左折進行してきた三郎運転の自転車に衝突し、この自転車に同乗していた原告花子に脳挫傷・遷延性意識障害の傷害を負わせた。

(2)原告花子は、本件事故直後から平成16年1月6日までB病院脳神経外 科に、翌7日から同年10月30日までC病院にそれぞれ入院したが、この入院期間中にも四肢麻痺、構音障害、異所性骨化(両下肢)、急性結膜炎、胃痩造設後状態、嚥下障害、胃空腸周囲炎(心身症)、両足内反尖足変形性、水頭症疑い等の障害が出ていた。

(3)原告花子は、平成16年10月30日に症状固定したが、頭部外傷(び まん性軸索損傷)の後遺症により、次の他覚症状が残存した。

ア. 運動系
重度左片麻痺、ブルンストロームステージ、上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅲ、右上下肢筋力低下、MMT4レベル、頸部・体幹筋力低下、立ち直り反応低下
イ. 脳神経系
右動眼神経麻痺による複視あり
ウ. 咀嚼・言語
咀嚼の障害あり、軟らかなものしか摂取できない、重度構音障害あり、「ア」以外 に発音不能
エ. 高次脳機能
(ア)知能低下 HDS-R 25点、コース立方体テストIQ 88.4 WISC-R 言語 IQ 60、動作IQ 45
全検査 IQ 45
(イ)左側無視…注意障害、口部顔面失行
(ウ)情動障害(易怒的、ふざけ)
上記症状のうち、身体機能に関しては今後不変、高次脳機能は改善の可能性があると診断された(証拠略)。

(4)原告花子の後遺症の症状は、以下のとおりであり、生涯介護を要する状 態である。
重度片麻痺、右上下肢筋力低下あり、咀嚼障害により軟らかなものしか摂取できない、言語障害により「ア」以外は発音不能、高次脳機能として知能低下、易怒性、ふざけの症状残存、記銘力低下のため他者の声かけや誘導が必要、注意・集中力低下により作業活動を持続して行うことができない、屋外歩行、階段の昇降は一人では不可、
また、起臥に介護を要し、言葉を発することができなくなったため、他者とのコミュ ニケーションがとれない、幼児番組を喜ぶようになり、腹を立てやすく暴力的である、ところかまわず大声を出したり、何かを思い出してか急に笑い出す、などとされ、全介助の必要性が窺われる。

その他、著しい記憶障害のため、新しいことを覚え留めておくことが全くできない。 思い込みと現実との区別ができず、日常生活に混乱を起こす、何度も同じことを繰り返し聞く、誰かが物を盗んだ・隠す・壊すと訴える、視力の低下により字が読めず、重視のため、物が二重に見え、日常生活が困難との症状もある。

(5)損害保険料率算出機構金沢自賠責損害調査事務所長は、平成17年3月 14日、原告花子の後遺障害について、1級1号と事前認定をした(証拠略)。

(6)被告の責任原因
被告は、交差道路を直進するに際し、前方左右を注視し、進路の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、後部座席に置いてあった弁当箱を取るのに気を取られ、前方左右を十分注視せず、進路の安全確認不十分のまま、漫然と進行した過失により、折から、進路前方の交差点から左折進行してきた三郎(当時12歳)運転の被害自転車を、前方6.7㍍の地点に迫ってようやく認め、急制動の措置をとったが間に合わず、同自転車に加害車両左前部を衝突させた。

したがって、被告には自賠法3条、民法709条により、本件事故によって生じた 原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(7)損害
本件事故により、少なくとも原告花子には、以下の合計601万9983円の損 害が発生した。
ア. 治療費 503万2939円
イ. 入院諸雑費 67万6500円
1日1500円×入院日数451日=67万6500円
ウ. 装具代 31万544円

(8)ニッセイ同和損害保険株式会社より、原告花子に対し、以下のとおり合 計880万5697円が内入弁済されている。
ア. 治療費 503万2939円
イ. 装具代 31万0544円
ウ. 原告花子への直接払 346万2214円

争点

(1)原告花子の損害の有無及び額
ア. 付添看護料
(原告花子の主張)
B病院やC病院では、完全看護であるといっても、24時間看護師が病室にいるわ けでもなく、定期的に巡回があるだけで、原告花子は、体の自由が全く効かず、自分の首や指さえ自分で動かせず、しばしば痰がつまり息ができなくなることがあったが、そういうときもナースコールさえ押して看護師を呼ぶことができず、看護師が来ても、言葉で意思を伝達することもできない重篤な状態であったため、付添看護は必要であった。

1日6500円×入院日数451日=293万1500円
(被告の主張)
B病院もC病院も付添看護の必要を認めていないし、原告花子が後記イ(ア)で主 張する寝具代は1日1,000円とすれば78日分にすぎないし、原告一郎が本件事故当時も勤務していた就業時間に照らせば、原告花子に病院で付き添うのは不可能であった。また、原告春子も本件事故当時、朝は新聞配達をし、昼間は寝たきりの原告一郎のおばの介護をしていたのであるから、原告花子に常時付き添うことができた可能性はない。また、親族の誰かが原告花子に付き添ったとしても、入院期間全日付き添ったとは考えられないし、また、そうであったとしても、1日付き添ったとは考えられない。

イ. その他雑費
(原告花子の主張)
(ア)付添寝具代 7万8068円
(イ)介護用品等購入費 6万6389円
(ウ)移送料費 2万6130円
(エ)特殊ベッド 15万4000円
(オ)スロープ 4万7600円
(カ)シャワーチェアー 2万円
(キ)装具代(株式会社金沢義肢製作所) 10万0177円
(ク)交通費 9万円
(B病院との往復 3万3750円
C病院との往復 5万6250円)
(ケ)自転車 1万円
(コ)衣服 5000円

(被告の主張)
不知又は争う。

ウ. 傷害による慰謝料
(原告花子の主張)
442万円
重症につき、民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(340万円)の30%増が相 当である。

(被告の主張)
争う。

エ. 逸失利益
(原告花子の主張)
5521万8149円

 351万8200円(全年齢平均賃金年額)
×100%(労働能力喪失率)
×15.695(52年(18歳から67歳まで)のライプニッツ係数)
=5521万8149円

(被告の主張)
原告花子の就労の始期を18歳としても、就労可能年齢である67歳までの期間は49年である。
また、原告花子は、本件事故当時13歳であったので、ライプニッツ係数は、54 年(13歳から67歳まで)のライプニッツ係数18.5651から5年(13歳か ら18歳まで)のライプニッツ係数4.3294を差し引いた14.2357である。

オ. 慰謝料
(原告花子の主張)
3,200万円
原告花子は、若干13歳で高度の後遺症が残存し、これから一生涯を全介護の中で生活せざるを得ない状況にあり、これに対する慰謝料としては、判例上認められる最高額の3,200万円が相当である。

(被告の主張)
争う。

カ. 介護料
(原告花子の主張)
5,551万1,200円
1日8,000円×30日×12か月×19.275(平均余命68年のライプニッツ係数)=5,551万1,200円

(被告の主張)
争う。

キ. 住宅改造費用及び介護用自動車購入費
(原告花子の主張)
(ア)介護用自動車購入費用 291万6123円
(イ)住宅改造費用 220万8100円
(ウ)段差解消機設置工事費 74万円
合計586万4223円
交渉中において、保険会社は、前記改造や購入の必要性を認め、支払提案書にも記載していた(証拠略)。

(被告の主張)
(ア)自動車購入価格は270万円(証拠略)であり、原告らが提出した 注文書(証拠略)には、消費税、自動車税、取得税が課せられているが、これらは非課税である。
また、介護用自動車は、介護のためにしか使えない車両ではなく、通常の運行の用に供することもできる車両であるから、購入費用のうち、介護用装置が装備されたことにより、高額となった金額のみが本件事故と因果関係のある損害である。

(イ)住宅改造費用は、値引きがあって、220万8100円(証拠略)である。
保険会社においては、円満に示談解決ができることを期待して示談交渉において一応認めたのであって、示談が成立しない場合は、前記提示を当然撤回することもある。
ク. 弁護士費用

(原告花子の主張)
1000万円
原告花子は、平成17年9月に原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任したが、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用としては1,000万円が相当である。

(被告の主張)
争う。

(2)原告一郎及び同春子の各損害(慰謝料)の有無及び額
(原告一郎及び同春子の主張)
各500万円
原告一郎及び同春子としては、若年の長女の成長を楽しみとすることもできず、将来への不安の中で介護していく生活を余儀なくされており、その慰謝料としては、各500万円が相当である。

(被告の主張)
争う。

(3)過失相殺
(被告の主張)
ア. 本件事故において、加害車両が走行した道路(以下「甲道路」という。) は優先道路であり、さらに、本件交差点はT字型である。T字型交差点の突き当たり路から優先道路である直進路に進入する場合、四輪であれ自転車であれ一時停止するのが当然であるし、その場合は、対向車は当然にいないから、対向車に対する注意は不要であり、直進路を走行する車両に対してのみ注意すれば足りるのであるから、三郎の不注意は、十字路における場合と比べてより大きい。

また、三郎は、直進路へ進入するに際し、甲道路に左折して走行する場合、左側車線を走行すべきであった。また、三郎は、甲道路の中央付近で十分に停止可能であり、また、本件交差点手前で減速した上で左折して自車線側の歩道に乗り入れ、駐車車両の脇を通過することもできたし、車道へ左折して駐車車両の右側を通過することもできた。

イ. 三郎は、当時標準の身長である小学校6年生であったにもかかわらず、大人用の自転車である被害自転車を使用し、しかも、自分よりも1歳年上で体も大きく体重も重い原告花子を後部に乗せて二人乗りの状態で運転していたため、本件交差点においてブレーキをかけたり、ハンドル操作をするなど被害自転車を的確に操作することが一切できなかったため、一時停止もしないまま、進行した道路(以下「乙道路」という。)から左折し、徐行もせずに、本件交差点の真ん中を突ききるようにして、甲道路の対向車線へ乗り入れ、同車線を加害車両が走行してくるのを認識しながら、加害車両へ向かって走行せざるをえなかった。

ウ. 原告花子は、被害自転車に荷台が設けられていなかったにもかかわらず、後輪を止めてあるネジの上に立つという極めて危険で通常ありえない姿勢で被害自転車に同乗していた。原告花子が三郎に比べて重大な障害を負っているのもこのことが大きな原因であったと考えられるので、この点は単なる二人乗りの評価に含めることはできない。

また、原告花子も、三郎が本件交差点で停止できずに進入することを知った時は、被害自転車から飛び降りるべきであったのであり、それはそんなに難しい行為ではなかった。

そして、原告春子は、三郎と原告花子が被害自転車に乗って家を出た時には、自宅にいたのであるから、被害自転車に乗らないよう注意すべきであった。

エ. 以上の事実に加え、三郎が児童であったこと、被告の前方不注視の過失 (甲道路が優先道路であること、乙道路から左折して甲道路へ進入してくる車両は通常ありえないことから、重過失とすべきではない。)を考慮すると、原告花子側の過失は、65%が相当である。

(原告らの主張)
ア. 十字路であっても一時停止すべき場合があるから、直進路に対する注意義務の点は同じであり、被害自転車は加害車両から見て右側から進入してきたことを考慮すれば、T字路を理由として過失相殺率を加算することは相当ではない。

イ. 三郎は、本件交差点を左折しようとしたが、左側の歩道に車が停車してい て歩道に上がれなかったため、咄嗟の判断で直進せざるを得なかったのであり、子供であればありうることである。

ウ. 原告花子の乗車姿勢は、類型の中では特別な過失とは評価されず、二人乗りの評価の中に含まれるものであり、三郎の運転方法も著しい不良な走行ではないので、別個の過失割合と評価されるべきではない。

エ. 被告の運転態度は、単なる脇見運転に止まらず、弁当箱を移動させるため左後方を振り向きながら進行し、助手席に弁当箱を移動し、この段階で前を見たところ、6.7㍍先でようやく被害自転車を発見したというものであり、著しい過失よりも重い重過失が認められる。

オ. 原告花子側の過失は、25%とするのが相当である。

第三 争点に対する判断

原告花子の損害の有無及び額(争点(1))について

(1)付添看護料 293万1500円
証拠(略)によれば、B病院及びC病院は完全看護の体制がとられており、前記第 二の1(2)の原告花子の入院期間中において、医師から原告一郎や同春子に対し、書面による付添指示があったわけではないものの、24時間看護師が原告花子の病室に詰めているわけではなく、他の患者に対する対応等のためにナースセンターに看護師がいないこともあったこと、原告花子は、当初、意識不明の重体に陥り、呼吸が止まることがしばしばあったが、体の自由が全く効かず、自分の首や指さえも自分で動かせないため、自らナースコールすら押すことができない状態にあり、その後も、重篤な後遺症を残し、日常生活動作の大部分に介護を必要としたこと、C病院においても、少なくとも平成16年1月7日から4月30日までは精神的サポートが重要な時期であり、家族による精神支援上、個室が望ましいとしていること、原告一郎、同春子及び同人の母が原告花子の前記入院期間中に交替で付き添ったことがそれぞれ認められる。

以上によれば、原告花子の入院期間中、常時付添看護の必要があり、原告一郎らが同花子に付き添ったことが認められる。

なお、被告は、原告花子が主張する寝具代や原告一郎の就業時間、また原告春子の当時の状況に照らせば、入院全期間付き添ったとは考えられないと主張し、確かに、証拠(略)によれば、前記寝具代は、原告花子がC病院に入院中付き添った際に使用した寝具を借りた代金であることが認められる。しかし、泊まりがけで付き添っていないことや原告一郎や原告春子の前記状況から、前記3名で交替で付き添っていたとする原告春子の供述が直ちに信用できないということはできない。

したがって、付添看護料として1日につき6500円とし、全入院期間である4 51日間を損害として認めるのが相当である。

6500円×451日=293万1500円

(2)その他雑費 48万5749円
証拠(略)によれば、介護用品(介護用の使い捨てスプーン、オムツ等)等購入費 として少なくとも被告の主張する6万6389円(証拠略)、転院の際の移送料費 として2万6130円(同32ないし40)、介護用の特殊ベッド購入費として15万4000円(同41)、自宅玄関に設置する簡易スロープ購入費として4万7,600円(同42)、介護用シャワーチェアーとして2万円(同43)、C病院における付添寝具代7万1453円(同44ないし63)、義肢(装具代)購入費として10万177円(同64)の各損害が発生したことが認められる。

なお、原告花子は、B病院やC病院へ入院していた間の自宅から往復の交通費を請求しているが、それらの損害については、前記付添看護料に含めて評価するのが相当であるし、また、被害自転車や衣服についての損害を請求している点についても、被害自転車や原告花子が本件事故当時着用していた衣服の価値を裏付ける資料は何ら提出されていないことからすれば、原告春子の供述のみに基づき、直ちに前記各損害を認定することは困難というべきである。

よって、その他雑費として、合計48万5749円を損害として認めるのが相当 である。

(3)慰謝料 3200万円
ア. 入院慰謝料 400万円
原告花子の傷害による慰謝料は、前記認定の傷害の部位・程度及び入院期間その他の諸般の事情を考慮すれば、400万円とするのが相当である。
イ. 後遺障害慰謝料 2800万円

原告花子の後遺障害については、前記第二の1(4)のとおりであり、証拠(略) によれば、原告花子は、自力歩行は不可能で車椅子でなければ移動できず、食事、排泄、入浴、その他生活全般について終身介護を受けなければならない状態となり、今後緩解する見通しはないことが認められ、前記第二の1(5)のとおり、上記後遺障害により、自賠等級別第1級1号に認定されたことが認められる。

以上の後遺障害の内容・程度その他の諸般の事情を考慮すれば、原告花子の後遺障害による慰謝料は2800万円とするのが相当である。

(4)後遺障害の逸失利益 4968万6863円
争いのない事実等及び証拠(略)によれば、原告花子は、平成15年の本件事故当時、13歳の健康な女性で、中学2年生であり、平成16年の症状固定時において18歳に満たなかったことが認められる。

したがって、原告花子の後遺症による逸失利益については、基礎収入を賃金センサス平成15年の女性労働者の産業計、企業規模計、学歴計女性労働者の全年齢平均賃金である349万300円とし、これに労働能力喪失率を100%として、ライプニッツ方式により中間利息を控除することとし、13歳ないし67歳の54年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数である18.5651から13歳ないし18歳の5年の就学期間に対応するライプニッツ係数である4.3294を差し引いた14.2357を乗じて算定すると、以下のとおり4968万6863円とな る。

349万300円×1.00×14.2357≒4,968万6863円

(5)将来の介護料 5,551万1,200円
前記(3)イで述べたとおり、原告花子は、症状固定時において常時介護を必要と する状態にあり、終身この状態が継続するものと考えられる。

原告花子は、平成16年の症状固定時において15歳であり、平成16年簡易生命 表によれば、少なくとも原告花子が主張している68年は近親者による介護を要すると認められ、それによる損害は1日8000円とし、ライプニッツ方式により中間 利息を控除して算定すると、少なくとも原告が主張するとおり5,551万1200円となる。

8,000円×30日×12か月×19.275=5551万1200円

(6)住宅改造費及び介護用自動車購入費 394万8,100円
証拠(略)によれば、原告一郎は、原告花子の介護のため、自宅を改造して、段差 解消機を設置し、自宅改造費として220万8,100円、段差解消機設置工事費と して74万円を支出するとともに、原告花子を移送させる際に利用するために車椅子を収納する装置の付いた普通乗用自動車を購入し、車両本体価格や付属品(合計247万9060円)、自動車税等の税金や自賠責保険料に車両登録費用等を含めて、291万6,123円を支払ったことが認められる。

先に認定した原告花子の後遺障害の内容・程度等を考慮すれば、前記住宅改造費全額は相当因果関係のある損害というべきであるが、介護用自動車の購入については、他の家族も利用でき、その便益にも資することが推認されるので、前記普通乗用自動車の購入代金等として支払った291万6,123円のうち約3分の1にあたる100万円が本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。

(7)よって、前記弁護士費用を除く原告花子の損害は、当事者間に争いのな い前記第二の1(7)の額を加算すると、1億5058万3395円となる。

原告一郎及び同春子の損害額(争点(2))について

慰謝料 各500万円

原告一郎及び同春子は、原告花子の両親として、同人を養育し、その成長を楽しみにしていたが、本件事故により、重篤な後遺症を負った原告花子の将来の成長への楽しみを奪われるとともに、将来に不安を抱きながら同人を介護していく生活を余儀なくされたことなどからすれば、原告一郎及び同春子は、原告花子の死亡に勝るとも劣らない精神的苦痛を受けたものと認められ、これに対する慰謝料としては、それぞれ500万円を認めるのが相当である。

過失相殺(争点(3))について

(1)争いのない事実等、証拠(略)を総合すれば、次の各事実が認められる。
ア. 本件事故現場は、ほぼ南北に通じる甲道路と、ほぼ西方向から東方向に通じる乙道路とが交わる交通整理の行われていないT字型の本件交差点付近である。

被告が進行してきた甲道路は、歩車道の区別がされた片側1車線の直線道路(優先道路)であり、道路の中央付近には、白色のペイントで破線の中央線が鮮明に標示されており、被告の進行車線の幅員は約3.1㍍、対向車線の幅員は約3.2㍍、進行方向左側には幅員約2.0㍍の歩道、右側には幅員約1.5㍍の歩道がある。

それに対し、三郎が進行してきた乙道路は、歩車道の区別がされていない幅員約 5.4㍍の道路である。

本件事故当時の天候は晴れで、アスファルト舗装された路面は乾燥していた。
甲道路の見通しは良好で、本件事故当時、本件交差点の入り口(甲道路の被告進行方向の対向車線)にワゴン車が一台歩道に乗り上げる形で駐車していたが、その状態でも、被告の進行方向からは、乙道路から左折して甲道路に進入してくる被害自転車を衝突地点の約26.2㍍前方で視認することができたし、本件事故発生時において、対向車線を走行してくる自動車はなかった。

イ. 被告は、本件事故当日、加害車両を運転し、本件事故現場付近を南から北に向け、時速約40ないし45㌔㍍で進行していたところ、自車左後部座席においてあった弁当箱を助手席に移動させるため、左後ろを振り向きながら約39.5㍍進行したため、対向車線に前記車両が駐車していたこともあって本件交差点の右方の乙道路から大回りをする形で左折をして被告進行車線に進入してきた三郎運転の被害自転車を、前方約6.7㍍の地点に迫って気づき、急制動の措置をとったが間に合わず、被害自転車に自車左前部を衝突させて、加害車両は衝突位置から約22.8㍍、北に進んだ地点に停止した。衝突地点から、三郎は約7.6㍍、被害自転車は約8.6㍍、原告花子は約15.7㍍、それぞれ離れたところに倒れていた。

ウ. その際、三郎は、当時12歳であったにもかかわらず、大人用の被害自転 車を運転しており、しかも、同自転車の後部には荷台がついていなかったにもかかわらず、原告花子を被害自転車の後輪を止めてあるネジの上に立たせる形で同乗させていた。

エ. 三郎は、本件事故により1週間の通院を要する頭部打撲、頭皮切創の傷害を負った。
(2)前記(1)で認定した事実を基に、本件事故の過失割合について検討す る。

被告が進行した甲道路は優先道路であり、交通整理の行われていない本件交差点において徐行する義務はなかったとはいうものの、周囲に住宅が立ち並ぶ住宅地域であったことが認められるのであるから、甲道路において加害車両を運転して本件交差点を通過しようとする被告においては、交差道路から本件交差点に進入する車両等に特に注意し、道路状況に応じて適宜安全な速度に調節して、安全な速度と方法で進行すべき義務があった(道路交通法36条4項)。しかも、本件事故現場の見通し状況は良好であり、被告が進路前方を注視していれば、三郎運転の自転車を衝突地点の約26.2㍍前方で容易に視認することができたにもかかわらず、本件事故の直前に、自車左後部席においてあった弁当箱を助手席に移し変えるため、左後ろを振り向きながら約39.5㍍進行するなどして、前方に対する注視を怠り、三郎運転の被害自転車が前方約6.7㍍に追って初めてそれを発見したことが認められる。

また、証拠(略)によれば、三郎運転の被害自転車は、加害車両の左前部バンパー、左前フェンダー、助手席ドアに衝突していることが窺われるものの、甲道路の被告進行車線の幅員は約3.1㍍あったのに対して、加害車両の車幅は1.66㍍にすぎず、当時対向車線を走行してくる車両もなかったことが認められるのであるから、被告が前記地点において被害自転車を発見した後、右にハンドルを切るなど適切なハンドル操作を行えば、衝突を回避することができた蓋然性が高く、それらの点において、被告の過失は非常に大きいというべきである。

他方、三郎は当時12歳の児童であり、保護する要請が高いことは否定できないも のの、反面、前記年齢に相応した身長しか有していなかったにもかかわらず、原告花子を荷台が設置されていない後部に乗せるという道路交通法上禁止されている方法で(同法55条1項)、しかも大人用の自転車を運転していたもので、本件事故当時においては被害自転車を巧みに操作して運転することが困難な状態であったというべきであり、そのことが、三郎が本件交差点に進入する前に一時停止をしたり、十分減速した上で左折し、甲道路の左側に設置されていた歩道に乗り入れるなどの安全な走行方法をとることなく、本件交差点を大回りに左折して、やはり道路交通法上禁止されている甲道路の右側を通行しようとしたこと(同法18条1項)の大きな誘因となったことは否定できず、三郎の被害自転車の前記運転方法もまた、本件事故の重要な要因になっている。

さらに、原告花子においても、前記自転車には荷台が設置されていなかったにもかかわらず、ヘルメット等も着用していないまま後輪を止めてあるネジの上に立つという、本来想定されていない方法で被害自転車に同乗していたものであり、その姿勢が、被害自転車が運転を誤って何かに衝突した際に容易に路上に投げ出されるなどして頭部等に重大な損傷を受けるおそれのある極めて危険な姿勢であったことは、被害自転車を運転して、むしろ本件事故時において、加害車両により近い位置にいた三郎が軽傷しか負っていないのに比し、後部に同乗していたにすぎない原告花子が先に認定した重大な障害を負っていることからも窺えるのであり、原告花子の前記同乗姿勢等が本件事故による同人自身の損害を拡大させたことも否定できない。

(3)以上の事実を考慮すれば、原告花子側の過失相殺として、45%を減額 するのが相当であり、その結果、本件事故により原告花子が被った損害額は、8282万0867円であり、原告一郎及び同春子の損害は、各275万円となる。

損益相殺について

前記第二の1(8)のとおり、原告花子に対し、内入弁済された金額計880万5697円を同人の前記損害額から控除すると、7401万5170円となる。

弁護士費用

原告花子が本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは当事者間に争いがなく、原告花子の前記損害と相当因果関係にある弁護士費用は740万円と認めるのが相当である。

よって、原告花子の損害賠償請求権の元本金額は、8141万5170円 となり、原告一郎及び同春子の元本金額は、各275万円となる。

結論

以上によれば、原告らの本件請求は、原告花子につき8141万5170円、 原告一郎及び同春子について各275万円並びにこれらに対する本件事故当日である平成15年8月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

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